ひとつのことだけに囚われてしまった者の末路

 球技大会、健康診断を挟んで、サロン・ユグドラシルの鈍と経一も登場する、長所を見る占い師のシリーズが始まる。
 明日葉や美作、藤麓介や鏑木真哉たちが出かけた評判の占いの館。見料無料というちょっと怪しい雰囲気に不安を感じたハデス先生は、その占い師に会いに行く。だがその占い師は、ハデス先生と同じ罹人だった。

 ハデス先生と同様に病魔を仕事に利用する占い師に遠慮してしまい、彼はせっかくの病魔退治のチャンスを逃して、子どもの操と共に逃走されてしまう。その結果、生徒たちが危険な目に会うことに。
 そして同じ頃、件の占い師を怪しく思っていた鈍も動き出していた。

 才能の与えられた部分にのみ固執してしまい、それ以外の全てを否定して暴走してしまった罹人の卑川鉄生。そのために、既に手に入れていた大切なものを取り返しがつかないほど傷つけてしまう。
 病魔を利用しているという根本的なところでは、彼とハデス先生との間に違いはない。ただ傷つける対象が他人か自分かの違いだけだ。本人にとってはそれで納得できることなのかも知れないが、その人を大切に思う人にとって見れば、それは黙って見過ごせるものではなく、何とか救い出そうと手を差し伸べる。そんな人を思いやる入れ子の構造と、それだけでは表現しきれない複雑な感情がここにはあるように感じる。

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藍本松作品の書評