現代にも通じる物事の本質

 古典的名作にいまさらボクごときが何かを書くのも面映い気もするが、やはり自分のためにも書いておきたい。

 焚書官のガイ・モンターグは、二人の女性によって人生を変えられる。一人は近所に住んでいる17歳の少女、クラリス・マックルランだ。自分の聞きたいことだけを聞き、全く疑問を抱かない周囲の人間と違い、物事になぜを問うクラリスは、周囲からは変人だと思われている。しかし何度か彼女と会話をするうちに、彼女の持つ知性に魅せられ、自分の生活や妻の生き方に疑問を持つようになる。
 そして二人目の女性は、モンターグの仕事場である焚書現場に居座った老女だ。禁じられた書物を焚書官の手から守るために、自ら火を放ち本と共に火に包まれる彼女を見て、彼女の人生をかけさせた書物の価値について思いをはせる様になる。そして、モンターグの行動の第一歩が始まる。

 初版は1953年と、もう60年近く前なのだが、現代に出版されたと聞いても全く不思議には思わない内容だ。例えば、自分の仕事に疑問を持ち始めたことを察した署長のビーティは、焚書の来歴をモンターグに語る。
「かつては書物が、(中略)かなりの人たちの心に訴えていた。(中略)映画、ラジオ、雑誌の氾濫。そしてその結果(中略)書物は(中略)低いレベルへ内容を落とさねばならなくなった。(中略)『ハムレット』を知っているという連中の知識にしたところで、(中略)一ページ・ダイジェスト版から仕入れたものだ」
「生活はそのひぐらし、仕事はわりのいいのだけをねらう。作業が終われば、遊びが待っている。ものを学ぶなんてたいして意味のあることじゃない」
「これはけっして政府が命令を下したわけじゃない。(中略)検閲制度があったわけでもない。(中略)工業技術の発達、大衆の啓蒙、それに、少数派への強要と、以上の三つを有効につかって、このトリックをやってのけたのだ」

 難しい漢字を全く使わない校正になっているのは、きっと多くの人に読んでもらいたいという思いなのだと思う。こんな未来を作らないためにはどうすれば良いか。文中で老教授のフェイバーはいう。ものの本質をつかむこと、考えるための閑暇を持つこと、この二つを考え合わせて正しい行動を起こすこと。
 華氏451度、摂氏233度という紙の引火するという温度が意味を持つ未来は作りたくないと思う。

   bk1

   
   amazon

   

レイ・ブラッドベリ作品の書評