一人にしないで。お金ならあるの

 大学生の高遠恵は、大叔父の大貫教授から割りの良いバイトの斡旋を受ける。仕事内容は、数学の家庭教師。相手は教授の姪で18歳の少女、藤岡紫。しかし彼女はただの少女ではない。資産170億円を築いたデイトレーダーなのだ。
 住んでいるところは夜景の綺麗な超高級マンション。一取引で億単位の儲けを出すすごい面を持っている一方で、人との付き合い方に戸惑い揺れる少女の一面も持つ。そんな彼女に寂しさを感じた恵は、自分の行動としては珍しく、彼女を積極的に外へ連れ出そうとする。

 「狼と香辛料」の支倉凍砂氏が原作の漫画。本人もデイトレードをやられている様なので、その経験も生かされているのかも知れない。
 普通のサラリーマンの生涯収入すら彼女の譲渡益税に及ばないという、嘘の様な現実は、彼女の家庭にひびを入れ、彼女を一人ぼっちにする。お金だけあっても使い道がなければ何の意味も無い。しかし全くお金がなくても何もできない。バランスがとても大事なのだと思う。

 かなり響いたのは、恵の友人の弼が、自分のFX失敗談として語ったセリフ。「僕はお金を失っても冷静でいられるほど強くなかった」行動経済学などで語られることの一つだけれど、非常に実感のこもったセリフに感じられた。冷静に損を切り捨てられなければ、株取引で儲けることはできない。

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桂明日香作品の書評