誰が笑っても静かに夢を貫く

 150年前に現れた魔王バロールにより、大陸は魔物が席巻する世界となってしまった。しかし彼ら魔物は海を渡ることができない。人間は海に面した6都市を錬成術によって切り離し、海流に乗って回遊するようにして防衛拠点とし、87の島々を生産拠点として何とか生き延びていた。
 魔物たちは普通の武器では傷つけることができない。試行錯誤の末、魔鋼というものを錬成術という精霊の力を利用した加工術で魔剣を精製し、それを操る魔剣使いが何とか都市を防衛していた。だが、20年前には勇者サーシャが魔王を自分の体に封印したものの、未だ世界は魔物たちの天下であり、魔剣使いたちのギルドも組織防衛を優先して本気で勇者を倒す気はない。

 そんな世界にあって、有名な独立魔剣使いバルトゥータスの弟子ロックは、本気で魔王を倒そうと考えている魔剣使いだ。彼は宿屋で働いて生活費を稼ぎながら、魔法盾を持つ魔剣使いの少女エリシアと錬成師の少女フィルと共に、大陸に渡っては魔物と戦い、魔鋼を集めて生活している。そんな彼はあるとき、言葉を回する魔剣ホルプを手にする。

 人類滅亡の三歩手前くらいまで追い込まれながら、ギリギリで都市を防衛して何とか均衡を保っているという世界で、その世界に住む人々の誰もが夢物語だと思う魔王討伐を本気で目指して努力し続けている少年がこの本の主役だ。
 しかし、彼のその夢はある意味で借りもので、本当の意味で自分の夢にはなり切っていない。だからこれはやはり、様々な人との出会いの中で少年が成長していく物語と言えるだろう。

 作者らしく相変わらず生真面目なキャラクターや、素直じゃないライバルなどが登場する。また、独自の世界観を作ろうという気概を感じる。そこにどうエンターテインメント性を結びつけるかで試行錯誤しているようだ。
 今回は世界観の紹介がメインだったが、次からは新天地が舞台になると思われる。魔剣と魔剣潰しの関係に関する伏線は、今回は完全放置。魔王と人間の関係も含めて、いずれ解き明かされることを期待したい。

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川口士作品の書評