品格を持った争い

 学校から程近い閉店1時間前のスーパー。買い物客が少しずつ減ってきた店の中に入り、お惣菜売り場に向かうと、そこに鎮座ましますのは3割引のお弁当が数個。

 もう少し待てば半額になるかも…ああ、でもその前に誰かが買ってしまうかも…。おなかは空いている。3割引のお弁当が買えない訳でもない。そんな葛藤に打ち勝った者だけが得られる、至福の半額弁当の味。この本は、遠い昔に忘れてしまったかもしれない気持ちを、再び思い起こさせてくれる。


 タイトルだけ見ると、古代ローマ時代の戦車のガチンコ勝負を思い出すかもしれないが、この本で戦うのは戦車ではなく、腹を空かせた少年少女。得られるものは、スーパーの半額神さまのお恵みなる、半額弁当なのである。
 なんとバカらしいと思うなかれ。この生活感あふれる戦場には、戦士によって守られるルールがあるのである。一つ、お惣菜売り場の前で半額になるのを待ってはいけない。一つ、半額シールを店員に要求してはならない、一つ、群れてはならない。これらのルールがあるからこそ、醜い奪い合いが、高貴なる決闘に変化するのだ。
 未だ学生の頃、あなたにも覚えがあるだろう。半額シールが貼られる前には違う売り場をうろちょろして時間を潰したりとか、シールが貼られる前の弁当を店員に差し出してシールを要求するおばちゃんの存在を苦々しく思ったり。かく言う自分も、閉店1時間くらい前にお店に行って、弁当売り場をチラ見しながら半額になるのを待った口なので、かなり心情を理解できる。


 日常生活にある、弁当が半値になるというそれだけの現象に人間ドラマを持ち込んだ、独創性にあふれる作品だと思う。


   bk1

   
   amazon