良心的な訳本

 パンを生産して消費するという、家計と企業のみのもっとも単純な経済モデルから始まり、閉鎖経済、開放経済と、順々にパラメーターを増やしながら、財政や金融の何をどう変えると経済のどこがどのように変化するのかを、グラフを多用しながら説明している。モデルを表す数式がいくつか登場するが、その定式化の説明はかなり省略されており、行間を補完する為には大学程度の微分学の知識が必要になる。
 入門篇では、出版されている通り、価格が伸縮的な古典経済学の説明から始まり、価格が硬直的なケインズ経済学の説明に発展していく。この訳者の親切なところは、原書の直訳に留まらず、日本での事例を補足したり、記述を日本のケースに改めている部分が散見されることである。このため、単なる訳本を読んでいるというよりは、原著者の構想に従って日本用の教科書が書き下ろされているとみなした方が適切かもしれない。
 応用篇では、古典派の理論において労働も資本も変化するケースである経済成長の理論や、マクロ経済政策に対する異なる理論からの効果と解釈など、入門篇に比べると、マクロ経済学者の間で現在も議論になっているトピックを取り上げているため、これといった正解が明確に提示されているわけではない。このため、記述のスタンスも、数式を丹念に追うというよりは、理論の概念的理解を進め議論の土台を作るという感じがする。

 何の基礎知識もなく本書を読むと、それが経済学のお約束なのか、記述レベルに合致しないため省略されているのかが良く分からず、終盤では難儀するところもある。試しに、WEB上で拾える参考文献を見てみたが、その参考文献も文章ばかりで一切数式がなかった。経済学というのは、特に仮説を提案する論文では、あまり数式にこだわらないのが通例なのだろうか。
 ケース・スタディなどを併せて読むと、新聞紙上を賑わせているような話題も多く、単純な読み物としても結構面白いと思う。

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N.Gregory Mankiw作品の書評