焦り、怒り、嫉妬、全てを写す盤上の駒

 とりあえず、後藤って棋士だったのか、と。前巻の、香子と一緒にいたときの描写からして、ヤから始まる職業の方だとばかり思っていました。その時の借りを盤上で返すべく、獅子王戦挑戦者決定トーナメントに挑む桐山零。しかし、その前に立ちふさがったのは、二階堂四段の兄弟子である島田八段だった。後藤九段との対決しか考えていない零は、島田八段を見下して挑むのだが…A級在位5年の実力と彼の額で輝く貫禄の前に、軽く吹っ飛ばされてしまうのだった。

 自分の居場所を失くさない様に将棋に打ち込み、そうすることによって新しく見つけた大切なものを壊しかけてしまった経験は、桐山を人との関係を切り離す方向に向かわせ、それでも何かを失くさない様に、必死に将棋にしがみつく。
 そのしがみついた手が離れそうになっても、その落ちる先では、彼を助けようと待ち構えてくれている人たちがたくさんいる。上を見上げれば、手を差し伸べてくれる人たちもたくさんいる。今回桐山は、他人に頼ることを覚えました。

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羽海野チカ作品の書評