遺伝子の枷、言葉の枷

 「もしも親が子供の遺伝子を自由に加工できたら」というもしもがあった場合の、現代のお話であり、軸になるのは三人の少年少女とその親たちだ。
 春野倫太郎は、親が望んだ才能を発現しなかったために、遺伝子操作をした会社に"返品"された過去を持つ。それを引き受けたのが、カスタマーサポート担当だった春野知佳だ。そんな倫太郎が予備校で出会った清田寿人は、親の宗教上の理由で全く遺伝子操作をされなかった子供。そして、アニメのキャラクターに似せて作られた冬上レイ。

 親は自分の子供に期待をする存在だが、その期待には根拠が無いのが普通だ。しかしこの世界では、自分が子供に最上の遺伝子を与えた(あるいは与えなかった)という根拠じみたものがある。だからその期待は明らかな形を持っていて、無慈悲に子供をゆがめる。わずかのズレも排除しようとする。作品中で無条件に許してくれるのは、遺伝子的に何のつながりも無い親だけというのは皮肉なことだ。

 一度課せられた枷は簡単には外れない。その中で三人は色々と足掻く。枷をはずすことに幸せを感じるのか、あるいは枷がかけられた(求められた)状態にあることに幸せを感じるのか、どちらがより幸せなのかがはっきりとは言えない世界なのだ。

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壁井ユカコ作品の書評