剥き出しの欲望を描く歴史小説

 南北朝時代から室町時代へと移り変わる頃、興福寺あたりに十七歳の猿楽太夫がいた。後に観阿弥と呼ばれる少年は、足利尊氏の持つ威容に魅かれ、その将軍すらもひき付ける芸を極めようと志す。その一歩として自分だけの一座を立ち上げようとするのだが、見込んだ田楽の舞い手の増にはすげなく断られ、その心意気を持て余してしまう。
 そんな時、増から頼まれたという志津が彼の前に現れ、一座立ち上げの手配を整えてくれるのだが…。

 自らの才を世に示し、人々の生死を支配する権力者すらも魅了する芸を作り上げたいという欲求、父の一座を引き継ぎ、地方巡業で日銭を稼ぐ兄を蔑む気持ち、自分を上回る芸を披露するものに対する嫉妬とそれを超えようとする気概などの剥き出しの感情がここにある。観阿弥が悩み苦しむ時にどこからともなく現れ、そして去っていく白拍子あやめや、裏から支える僧兵の忍性などという、彼を前へと進ませる人々がいる。そして、彼を政治的に利用しようとする権力者達も。
 それらの環境の中、彼はどこへと進むのか。

 メディアワークスの作品としては、かなり異色だと思う。ほぼ歴史小説と言って良い。しかし、この作品が売れるようならば、十分新たな読者層を獲得できた証明となるだろう。

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永田ガラ作品の書評