嘘から出た真が功を奏す

 お調子者で評判の波河久則は、友人二人と一緒に、偶然拾った携帯電話でのいたずら電話を楽しんでいた。三人で順番に電話をかけながら、アドリブで話を紡ぐ。最後にかかった相手の少女に対して、久則は、彼女の未来の恋人が電話をかけてきたという設定で、ある予言をする。自分たちはもうすぐ出会うこと。自分たちは将来、人を殺してしまう。だから出会わない方が良い、と。その予言を信じるための確証が欲しいという少女の要望に答え、久則は、近く起きる5つの出来事を予言する。
 そんないたずらをしたのも忘れかけていた頃、久則は教師について出かけた女子高で、一人の少女に一目ぼれをする。その少女の名前は、三条有亜。久則がいたずら電話をかけた相手だった。
 そして、次々に実現する予言。彼女の周りで窃盗事件が起き、黄色いコートを着た少女が階段から落ちる。段々とエスカレートする事件に恐怖する有亜は、久則との接触を立ってしまう。そのことにショックを受けた久則は、従弟の正臣に協力を依頼し、問題の解決を試みる。しかし、その努力はむなしく、着実に予言は成就していく。

 お調子者で単純な直情径行型である久則と、論理的で他者を寄せ付けない雰囲気を持つ正臣のコンビが、しっかりものであろうと努力する少女に襲い掛かるはずの不幸を、未然に回避しようとするミステリー風の物語。前作が既に完了した事件に対する心の整理という形式だったことを考えると、その点は大きく異なっている。
 久則と有亜のやり取りだけを見ていると、ラブコメディになってもおかしくないキャラクターであり、そういう面からも楽しめる。でも、やはり本質は人の内面を描くところにあり、そこが少し恐ろしく、面白いところでもある。

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静月遠火作品の書評