楽しい下校風景

 高校生活のうち、下校という部分にだけスポットを当てて、ひたすら寄り道の様子だけを描いている。それというのも、主人公の池田十勝が下校時に遊ぶということに強烈な憧れをもっていて、入学式の下校時にデパートの催事場で偶然出会った少女三人と意気投合、それからは一緒に下校するようになったからだ。
 この少女たちがいずれもかわいいのだけれど、基本的にマイナス思考に陥っている千歳キララ、放送部に所属して学校のアイドルを目指すおしゃべりな丹下まりも、セミプロの写真家でちょっと性格が黒い富良野咲という、それぞれの個性がある。

 下校という狭い領域に特化し、ハーレム的な展開に持ち込むところは、柳の下に二匹目のドジョウを狙ったようにも見える。それに、お互いあまり良く知らないのにいきなり意気投合して、帰る方向が違うにも拘らずほぼ毎日一緒に下校するという展開は、性急に過ぎるような気がしなくもない。
 しかし、スポーツ漫画などを見ても、同じ部活に所属しているというだけでお互いのことは良く知らない場合もあるし、描かれるのは部活風景だけで日常の様子が描かれないことも多いのだから、"帰宅部"の活動風景を描いていると割り切ってしまえば、こういうのもおかしくはないのかもしれない。
 ただ、こういう風に理解したとすると、いくつかの疑問が残る。例えば、丹下まりもはみんなから好かれたいのだから、特定の誰かとばかり一緒に遊ぶよりも、色んな人と遊んでいる方が彼女の目的に適うはずだ。富良野咲は、生徒のいろんな面を写真におさめたいのだから、学校に残って自ら部活の様子を撮りに行っても良いはずだ。つまり、彼女たちがあえて"帰宅部"を選ぶ動機が少ない気がしてならない。

 こんな変なことを考えずに、少年一人と少女三人というシチュエーションで生み出される、様々な下校風景を、ちょっとニヤっとしながら楽しむのが正しい楽しみ方ではあると思う。

   bk1

   
   amazon

   

比嘉智康作品の書評