見かけの派手さではなく、精緻な細工が魅力

 帝国の官吏であり、数百年前に帝国に併呑された王国の末裔でもあるヤエトは、帝国の辺境、北嶺郡の尚書官に左遷される。彼以外の官吏は全て現地採用であり、控えめに言っても官吏ごっこをしている程度の能力しかないが、代わりにのんびり過ごせるとヤエトは思っていた。そんな辺境の地に、皇帝の末娘が太守として着任する時までは!
 帝都とは全く環境の異なる北嶺では、ろくに飼葉も採れず、騎士の命たる馬も養うことができない。北嶺の民は馬の代わりに巨鳥を馴致して使役しているので問題はないのだが、一事が万事かくのごとくであり、皇女の騎士団と現地の官吏は対立をしてしまう。彼らの仲を取り持ちつつ、北嶺の事務レベルを上げ、皇女の相手をすると言う神経を使う仕事が、隠居を夢見るヤエトに降りかかってくる。

 生来の病弱さと、彼に備わっている過去視の恩寵の弊害で、たびたび倒れながらではあるが、何とか仕事を切り回し、それなりに落ち着いてきた頃、ヤエトは偶然、皇帝一族と北嶺の民の間に、なんらかの関係があるのではないかと気づく。だがそれを深く考える間もなく、皇女や周囲の人々が、次々と問題を巻き起こしていくのであった。

 歴史ファンタジー風の物語なのだが、主人公は大変病弱の歴史学者という風情で、とてもとても、アクションという雰囲気はない。代わりに、異文化対立や歴史の謎、高貴な生まれの人々の苦悩など、人物や世界を少しずつ詳らかにしていくことで、確かな舞台を作り上げていく。
 見かけの派手さではなく、精緻な細工が魅力の作品だろう。

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妹尾ゆふ子作品の書評