ぶつかり合うことでしか本当の心は探れない

 横寺陽人は人よりも少しだけ煩悩の多い高校二年生。何せ陸上部に入部した理由も、競泳水着を除けるスポットに近い場所で練習をしているから、というくらいだ。だからそのためには努力を惜しまない。早く休憩するために誰よりも早く走れるように練習をしていたら、鋼鉄の王と称される陸上部長(女性)から、次期部長に任命されてしまった。
 横寺の人生はいつもそう。欲望に基づいて行動しているだけなのに、何故か誰かの役に立っていて称賛されてしまう。それもこれも、横寺が他人の言葉を否定して自分の意見を言えないからだ。そんな自分を変えたくて、友人のポン太から聞いた笑わない猫像にお願いしに行くことにした。

 ポン太曰く、笑わない猫像はお供え物をしてお願いすることで、自分のいらないものを、必要とする誰かに渡してくれるという。夜遅くにお供えの抱き枕を持って出かけたところ、その場にいた少女、筒隠月子とぶつかってしまう。
 深夜の暗がりで抱き枕を抱えた男に恐怖を抱かない女性はいないだろう。散々怖がられ泣き叫ばれたあげく、ようやく事情を説明することが出来た横寺は、月子と一緒にお願いをすることにする。横寺は嘘やごまかしをしない様に、月子は本音を隠して感情を抑えられる様に。だがその結果として、横寺は本音ダダ漏れ変態王子に、月子は感情表現が出来ない様になってしまったのだ。状況を元通りにするため、二人の協力関係が始まる!

 タイトルにインパクトがあるのだけれど、後半に行くほど結構真面目な人間関係に関するストーリーになっていく。他人を信じて裏切られてしまった子。好かれたい人に遠ざけられてしまった人。自分の本音が何なのかよく分からない人。表面的なことで留まりたくないならば、言葉を尽くしてぶつかり合うしかない。
 この作品の大きな魅力は、キャラクターの可愛らしさにある様な気がする。イラストがそれを助長しているのは確かだが、元々の文章におけるキャラの言動の表現が良いと思う。そしてそれが読者の望むものをおそらく外していない。
 きっとまだ続くので、この先のストーリーが楽しみです。

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さがら総作品の書評