それが夢では価値がない

 佐藤光一が学校へ行くと、いつもとは違って周囲の人たちが変だった。浅野広美はドSどころか泣き虫になっているし、チダイはちょんまげ侍になっている。間宮薫は色々と大きくなっているし、桐咲兎乃は色々と控えめになっている。そして何より、アルルがいないし、誰もそんな変化を不思議に思っていないことが変すぎる!
 ふだんは中二病をこじらせている佐藤光一が一番まともだという変な状況。しかし周りはその変さをふつうだと思っているので、やっぱり変なのは佐藤光一。そんなおかしな状況を創り出しているネメシス《幸福夢幻》が生み出す、幸せな夢に呑み込む力に屈しそうになった彼の前に現れたのは、能力泥棒・秋雨心路が現れる。アルルやシェード指令の能登原明日菜と合流し、脱出しようと試みるのだが、幸せな夢におぼれた能力者たちが、彼らの前に立ちふさがる。

 ネメシスという特殊能力を持っている人たちは、辛い現実を否定したいと思っていたり、能力の代償であるアンチテーゼを否定したいと思っていたりする。だからこそ、それが実現された幸せな夢の中はとても居心地が良い。それをあえて否定して、現実でより良い世界を取り戻そうとするのが、夢に呑みこまれなかった能力者たちだ。
 今回は間宮薫たちシェード特務班の活躍はほとんどない。中心は佐藤光一と秋雨心路、そしてシェード指令の能登原明日菜だ。隠されたつらい現実が夢の中で明らかになることにより、物語に新しい展開が生まれる。

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柳実冬貴作品の書評