先の長い人生の、はじめての大きな転機

 柴村仁「×××さんの場合」紅玉いづき「2Bの黒髪」橋本紡「十九になるわたしたちへ」綾崎隼「向日葵ラプソディ」入間人間「19歳だった」の、いずれも19歳を主人公とした短編集。
 個人的な好みでいうと「×××さんの場合」「2Bの黒髪」が良かった。前者は19歳の女性とそれを取り巻く人間模様を様々な視点で描いているのだが、オチがブラックでゾクッとした。まさか募金活動を持って来るなんて…。後者は追い込まれる中で少しでも這い出ようとして、Webマンガで表現していく姿にリアルを感じた。
 「十九になるわたしたちへ」はむしろ叔父さんが主役の様な気もする。だから年長者から見た19歳という感じなのだけれど、テーマとは関係なく上手いと思う。「向日葵ラプソディ」は19歳の理由があまり感じられなかったが、短編でおさめるのはもったいない気がする。

 作品を並べると色々と浮き彫りになることがありすぎて、かなり危険な企画だと思う。

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橋本紡作品の書評

少年少女の脱出劇

 灰葉スミオには夢日記という不思議な力がある。少し先の未来を絵日記で知ることができるのだ。スミオはそれを利用して周囲のトラブルを防いだりしていた。
 そんなある日、スミオの母親が失踪してしまい、スミオ自身はエニグマという存在によって、学校に監禁されてしまう。同じ様に監禁されている7名と共に、脱出の糸口を探るのだが、学校の中には彼らを襲うシャドーが徘徊していた。
 特殊な才能を持った少年少女たちによる、クローズドサークルのサスペンスが始まる。

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榊健滋作品の書評

ロケットパンチでみんな解決

 同じ新人調停員のセシル・ファルコナーと一緒に、オルキヌスの火山にあるドワーフの工房を見学に訪れた稲朽深弦は、またしてもイメージとのギャップに衝撃を受ける。この工房のドワーフからの依頼でサラマンダーの様子を見に行った二人は、マンドレイクが抱えるストレスを解消するため、森で起き始めている対立の解消に乗り出す。
 今回は少し大規模な調停をすることになった深弦。数少ない武器を使って、どうやって森の対立を解消するのか。周囲を利用し流れに任せた交渉が行われます。解決のポイントはロケットパンチ

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鳥羽徹作品の書評

はじめての調停

 海の真ん中に突如現れた島オルキヌスには、神話や物語の中で語られる幻獣たち、オルクが棲んでいる。オルクからの提案で、人類はオルキヌスに調停員を駐留させ、オルクたち種族間の争いなどを仲裁して彼らと付き合っている。
 稲朽深弦は新人調停員だが、彼女を指導するはずの調停員、秋永壱里が失踪してしまったため、オルキヌスに置ける自分の地位を確立するため、壱里調停員のパートナーのオルク・オリーブの指導の下、オルクたちの調停を始めることにする。

 人類を超える力を持つけれど、生きるために必要とするものがない彼らは、基本的に自分たちの趣味に生きている。そんな自由気ままな存在同士を仲立ちしなければならないので、その仕事には適正が必要になる。深弦のそれは、おおよそ突っ込み能力だ。このため、彼女の調停は、オルクのボケに対するツッコミという形になりやすい。
 成り立ちも不明な島に住む高等遊民的生物たちと人間との交流を描くコメディです。

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鳥羽徹作品の書評

バレーボール勝負の決着

 六騎聖とのバレーボール勝負が開始される。1セット中盤でリードを許してしまった石破魔軍団は、姫川提案の策を実行して試合を有利に進め始める。しかし、出馬の変則サーブによってそれも逆転。このまま押し切られてしまうのか?そして試合終了後には意外なピンチが。
 学校内の抗争はひと段落して、もっと大きな争いのもとが持ち上がります。

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田村隆平作品の書評

描かれる物語の外側に面白さがある*[集英社]

 21世紀後半、首都圏の地方都市に日本問題象徴介入改変装置が建設された。この装置のおかげで、日本に関する問題が一夜で解決されるようになり、日本は世界の中で復権することが出来たが、代わりに、この街を平和を乱す存在と密室殺人が満たすようになった。そしてこれらの、日本の問題を象徴する事件を勇者・疾風寺舞や探偵・万陀院恋が解決することで、日本の問題が解決される。
 そんな非日常が日常となった街で暮らす人々は酷く退屈している。どんな非常識な事件が起きても、被害者として物語に組み込まれた人々以外が傷つくことはない。ベーシック・インカムが制度化され、補償金までもらえるため、生活のために働く必要がない。だから街にはパチンコ屋がいっぱいだ。

 そんな街にある高校で、一人の少女が事故死する。全くどんな日本問題も象徴しない、ただの事故死だ。クラスメイトの一部は、彼女の死を意味あるものにするため、ただの事故死を邪教教団による生け贄の結果と偽装する。勇者を騙して物語とし、過去を改変して彼女の死の真実を書き換えるのだ。
 ぼくは彼女と最後に交わした言葉を胸に、そんな改変を望むクラスメイトと近づいたり離れたりしながら、彼女の死の真相を解き明かしてくれる探偵の来訪を待つ。

 読後、プロローグとエピローグの関係を考えてみると面白い。あるいは別の死の真相を想像してみると空恐ろしい。描かれる物語の外側に面白さがある性質の本だと思う。

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大樹連司作品の書評

鵺の正体

 鬼纏を習得して土蜘蛛と戦えるレベルになったリクオのもとに、遠野妖怪たちも集結する。そんな戦いが行われている裏では、弐條城で羽衣狐とぬらりひょんが400年ぶりの再会を果たしていた。
 鵺の正体と、千年前の京都で起きた鵺誕生の物語が明らかになる。

 リクオが新しい百鬼夜行を築き始めているのと同時に、ぬらりひょんは四百年前から続く奴良組と羽衣狐の因縁を断ち切るために弐條城に赴く。そこで今回の事件に秘められた陰謀が見え隠れするのだ。
 一方で、鵺の意外な正体も分かってくる。妖怪と人間のクォーターであるリクオと、同じ様な立場の存在であるのだが、そこから目指した方向性はかなり違う。これから始まる戦いは、そういう思想の違いによる衝突という面もあるのかも知れない。

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椎橋寛作品の書評